東京地方裁判所 平成12年(ワ)4996号 判決
原告 長坂幸子
右訴訟代理人弁護士 伊東良徳
被告 株式会社オークス
右代表者代表取締役 福原孝司
主文
一 被告は、原告に対し、金一七八万八七三四円及びこれに対する平成一二年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
一 請求
主文同旨
一 事案の概要
1 前提となる事実(争いがない)
(一) 金銭消費貸借契約の締結
原告は、被告から昭和六三年一一月一四日以降別紙過払い金計算書(以下「別表」という)中の各日付欄記載の日に、借入額欄記載の金員を、平成三年一月八日貸付分までは年利四七・四五パーセント、平成四年八月四日貸付分以降は年利三九・八〇パーセントの約定利息で借り受け、これを別表中の日付欄記載の日に同返済額欄記載の金員を任意に被告に支払った。
(二) 利息制限法超過分の元本充当による計算結果
右支払に係る利息(以下「本件各利息」という)は利息制限法一条一項所定の利息の制限額を超えるものであるところ、これを同条項所定の年一割八分の利率で計算し直し、右利率による利息を超える部分(別表の元本充当額欄の各金額)を順次元本に充当していくと、平成一二年三月一三日の時点で一七八万八七三四円が過払となる(別表残元本欄記載の金額)
(三) 被告の本件各利息の受領形態
(1) 被告は、貸企業等の規制に関する法律(以下「貸金業法」という)三条一項の規定に基づき、東海財務局長(4)第〇〇〇九六号をもって登録している貸金業者である。
(2) 被告は、本件各利息の支払を受けるに先立ち、右利息の利率が利息制限法一項所定の利率を超えるものであるため、これを貸金業法四三条のみなし弁済(以下「みなし弁済」という)の適用により、有効な利息として受領すべく、本件各貸付けに先立ち、貸金業法一七条一項所定の契約書面(以下「一七条書面」という)を原告に交付した(貸金業法四三条一項一号)。しかし、貸金業法一八条一項所定の書面(受取証書 同法四三条一項二号による義務付け。以下「一八条書面」という)については、原告が右の交付に代えて、被告において右書面を預り保管することに同意している(以下「本件同意」という)ことを理由に、右交付をしていない。
2 原告の主張
(一) 被告は、原告の本件各利息の支払が利息制限法所定の利率を超えるものであることを知りながらこれを受領してきたものであり、法律の原因なくして一七八万八七三四円を利得し、原告に同額の損害を与えたものである。
(二) 本件同意の事実は、貸金業法四三条のみなし弁済の適用との関係では、被告に対し一八条書面の交付義務を免除するものではなく、みなし弁済の適用の主張は理由がない。
(三) よって、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、金一七八万八七三四円及びこれに対する請求の後の日(訴状送達日の翌日)である平成一二年三月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。
3 被告の主張
(一) 被告は、貸金業法三条一項所定の登録貸金業者であるところ、本件各利息の支払は原告の任意に基づくものであり、かつ、右受領につき、被告は貸金業法四三条一項一、二号に従い法定の書面を原告に交付をしている。
なお、一八条書面(受取証書)については、被告はこれを原告に交付していないが、それは本件同意に基づくものである。したがって、一八条書面についても交付の要件を充足しているか又は右交付義務の免除があったものである。
(二) 右のとおりであり、原告のした本件各利息の弁済はすべて有効なものであり、原告の不当利得返還請求は理由がない。
4 争点
貸金業法四三条のみなし弁済の適用に関し、本件合意により一八条書面の交付擬制又は右交付義務の免除を認めることができるか。
三 争点に対する判断
1 貸金業法上、貸金業者が貸金業法四三条の「みなし弁済」規定の適用を受けるためには、一七条書面の交付を要するほか、一八条書面を弁済を受ける都度直ちに交付しなければならないとされているところ(同法四三条一項)、本件各利息の支払につき、被告は一八条書面を交付していない。
被告は、本件同意を根拠に一八条書面の交付の擬制ないし交付義務の免除があるかのごとく主張する。しかし、一八条書面の交付はみなし弁済適用の法定要件であり、何ら除外事由が付されていない。また、実質的にみても、一八条書面は、その交付を受けることにより、債務者は払込利息額、元本等への充当関係を具体的に把握し、自己の債務状況を正確に認識することができる重要な資料である。更に、一八条書面の交付をみなし弁済適用の要件と解しない場合には、貸金業者が貸付時の有利な地位を利用して、一層簡易な書面の交付等の方法を同項の書面の作成交付に代える旨の合意を強要するおそれも否定できないのであり、同法四三条が厳格な要件を定めた意義が失われてしまうことになる。このように法文の解釈、一八条書面交付を義務付けている趣旨にかんがみると、特段の事情の認められない本件においては、本件合意のあることのみをもって、一八条書面の交付擬制又は交付義務の免除を認めることはできないものというべきである(最高裁平成一一年一月二一日第一小法廷判決・民集五三巻一号九八頁参照)。
2 すると、被告のみなし弁済の主張は主張自体失当というべきであり、本件各利息の弁済のうち利息制限法一条一項所定の利率を超える部分は無効であり、右部分の取得は法律の根拠を欠く不当利得となる。したがって、被告は原告に対し、民法七〇四条に基づき右利得を返還すべき義務がある。
3 よって、原告の請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤村啓)
別紙<省略>